◎「グリコ・森永事件」を下敷きに 『罪の声』を読む

 ゴールデンウイークは最高! だが、帰省しても行楽地へ行っても、どこも車で渋滞。分厚い本を読むか、と思って手にしたのが400ページを超える小説『罪の声』(元神戸新聞記者の塩田武士著)。

 今から33年前の1984年3月に起きた、日本の犯罪史上で例のない「グリコ・森永事件」を下敷きにしているという宣伝に惹かれた。犯人は捕まらず時効になっている。この事件で、ずっとひっかかっていたのが、現金の引き渡し場所などを告げる、テープに録音された子どもたちの声である。

 「きょうとへむかって、いちごうせんを…にきろ、ばーすーてーい、じょーなんぐーの、べんちの、こしかけの、うら」

 この幼い子どもたちは、現在では30歳代後半から40歳代はじめになっているはずである。ひょっとしたら、自分の周りで生き、働いているかも知れない…と長い間、思っていたが、小説はその子どもたちがテーマである。小説の帯封には、こうある。

 「京都でテーラーを営む曽根俊也は、ある日父の遺品の中からカセットテープと黒革のノートを見つける。 ノートには英文に混じって製菓メーカーの『ギンガ』と『萬堂』の文字。テープを再生すると、自分の幼いころの声が聞こえてくる。…」

 「ギンガ」は、グリコ、「萬堂」は森永だが、小説の主舞台は、滋賀県の名神高速道路大津サービスエリアなどでの現金受け渡しをめぐる、犯人たちと警察との息詰まる攻防戦である。先のテープの子どもの声は、このなかで使われた。

 「グリコ・森永事件」で犯人たちは、たくさんの物証を残しながらも逮捕されなかった。物証のなかでも関西弁を使った脅迫文などは、警察をからかったひらがなまじりの文面だが、この事件のユニークさを物語っている。

 「けいさつの あほども え おまえら あほか 人数 たくさん おって なにしてるねん プロ やったら わしら つかまえてみ ハンデ― ありすぎ やから ヒント おしえたる」

『罪の声』


 小説では、犯人像を学生運動の元過激派、仕手戦グループ、元刑事、産廃業者などと推定し、主犯格をイギリスのヨークにまで訪ねる。そして、テープに残された3人の子どもの声の主をついに突き止める…。

 もちろん、これは小説であり、実際の犯人たちとは違う。犯人たちは、もう亡くなっているかもしれないが子どもたちは、確実に生きているだろう。それだけに、小説『罪の声』は、33年前の「グリコ・森永事件」を思い出させる。

 同じように「グリコ・森永事件」をヒントにした小説に高村薫の『レディ・ジョーカー』がある。こちらは『罪の声』のさらに4倍もの長編小説だが、舞台は東京、脅迫対象会社はビール会社とまったく書き換えている。

 筆力、構想力の点では『罪の声』は、『レディ・ジョーカー』に及ばないと思ったが、とにかく「グリコ・森永事件」が社会に与えた影響ははかりしれない。「グリコ・森永事件」は、これからも小説の題材になるかもしれない。

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未分類 | コメント(0) | トラックバック(0) | 2017/05/05 14:21
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