◎人肉を食べた軍隊

 作家、大岡昇平の『野火』は、戦争文学にとどまらず、戦後文学の金字塔だといわれる。終戦が迫った1944年11月、フィリッピンのレイテ島で、結核になった田村一等兵は、わずか6本の芋を渡されて野火が燃える原野をさまよう。

 もうろうとした飢えのなかで、自分の血を吸ったヒルまで食べる。ころがっていた日本兵の死体の臀部の肉がないことに気付く。ある一等兵に、「ニューギニアで人間を喰ったって、ほんとですか」と聞く。一等兵は、「まさか、ってことにしておこう…」と答える。

 剣も拳銃も持っていなかった将校に、おびただしい蠅がたかっていた。彼は手で蠅を払いながら、「天皇陛下様。大日本帝国様。何とぞ、家へ帰らして下さいませ。飛行機様。迎えに来い」と頭を地面につけておじぎする。

 田村は、死体をおおったヒルを除けながら、右手で剣を抜いた。
 「私は誰も見ていないことを、もう一度確かめた。その時変なことが起った。剣を持った私の右の手首を、左の手が握ったのである」

12 野火 ビラ
(映画「野火」のビラ)

 戦後70年の昨年、塚本晋也主演・監督の映画「野火」が公開された。映像の迫力はすさまじかった。弾丸が撃ち込まれた兵隊が吹っ飛ぶ、もぎ取られた片腕が転がり落ちる、死体に蛆虫…。

 狂気の戦場を描き尽くし、正視に耐えない。戦場の飢餓感に吐き気が襲う。精神がおかしくなりそうだった。精神を安定させるために静かなカフェに入った。そして思った。「戦争映画は、ここまでリアルに描いてこそ本物だろう。たんなる弾の射ち合いだけでは、真実に迫れない」。

 歴史学者で一橋大学の故・藤原彰教授の著作に『餓死した英霊たち』がある。アジア・太平洋戦争で軍人・軍属は約230万人が亡くなったが、栄養失調による餓死者など広義の餓死者数を140万人と推定している。何と、約6割が餓死していることになる。

30 餓死者 割合
(「餓死(戦病死)した兵士の地域別割合」=「しんぶん赤旗」日曜版、8月14日号から)

 補給を無視し、戦線を中国からアジア、太平洋諸島へと拡大していった侵略戦争の実態と無謀さを示すものだ。

 「しんぶん赤旗」日曜版(8月14日号)が、『餓死した英霊たち』を基にして地図「餓死(戦病死)した兵士の地域別割合」を作成している。フィリピン80%、東部ニューギニア90%…。

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戦争と平和 | コメント(3) | トラックバック(0) | 2016/08/15 09:32
コメント
No title
「共産党国家で戦争でもないのに数百万の市民が人肉を食べるまでに追い詰められたホロモドールの虐殺は隠しておこ」
No title
日本共産党は隠すどころか、巨悪スターリンを今も追い続けています。一度、不破哲三著『スターリン秘史―巨悪の成立と展開』(全6巻)を読んで、冷静になられたらいいですよ。
No title
志井委員長の叔父はそんなスターリン時代のソ連のスパイとして教育を受け、戦後も二重スパイとして活動していた。

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