◎半藤利一さんらの『賊軍の昭和史』

 大型連休中ですから、5月1日アップに続いて、半藤利一さんの著作をもう1つ紹介します。ノンフィクション作家の保坂正康さんとの対談『賊軍の昭和史』(東洋経済新報社、15年8月刊)です。

 半藤さんは、この本のプロローグで書いています。かつての著書『幕末史』で、小中学生の9年間、「戦前の皇国史観、正しくは『薩長史観』によって、近代日本の成立史を徹底的に仕込まれた。つまりは、“官軍”と“賊軍”の史観です」と書いたことを引用しています。

 そして、「その史観がこの国を亡国に導いたと思うがゆえに、その少年期からの呪縛から抜けでるために、この『幕末史』を世に問うたのである」とのべています。

 “官軍”を意味する薩長とは、薩摩藩、長州藩のことです。幕末から明治にかけて、初代首相の伊藤博文や徴兵制を導入した山形有朋など、両藩出身の下級武士が権力を握り、幕府側に付いた会津藩などが“賊軍”です。

 その上で、現在の日本は、「薩長史観」的な、日本を軍事的強国にする考え方が大きく息を吹き返してきているような気がしてならない、と危惧しています。

 その例として、安倍晋三首相は15年2月の施政方針演説で、幕末の吉田松陰がしきりに唱えた「知行合一」という陽明学の言葉を引用し、こうのべたといいます。

 「この国会に求められていることは、単なる批判の応酬ではありません。『行動』です」

 半藤さんは、テレビで安倍首相の演説を見ながら、おもわず自分の頭をぶっ叩いたといいます。戦前、権力者たちが国民の頭に刷り込んだ壮語と同じではないか、と。

賊軍の昭和史
(半藤利一さんらの『賊軍の昭和史』と吉田松陰の著書『幽囚録』の礼賛本)

 さらに松陰の著書『幽囚録』を引用し、「松陰の門下生とその思想の流れを汲むものたちによってつくられた国家が、松陰の教えを忠実に実現せんとアジアの諸国へ怒涛の進撃をし、それが仇となってかえって国を亡ぼしてしまった」と強調します。

 『幽囚録』は、後の“大東亜共栄圏”につながっていったと半藤さんは指摘します。次は、『幽囚録』のその部分です。

 「蝦夷を開墾して諸侯を封建し、間(すき)に乘じて加摸察加(カムチャッカ)・隩都加(オホーツク)を奪ひ、琉球に諭(さと)し、朝覲会同すること内諸侯と比しからしめ、朝鮮を責めて質を納れ貢を奉ること古の盛時の如くならしめ、北は滿州の地を割き、南は台灣・呂宋(ルソン)の諸島を収め、漸に進取の勢を示すべし」

 恐ろしいですね。NHKが2015年に放送した大河ドラマ「花燃ゆ」は、主人公・杉文(すぎふみ)の兄、松陰を憂国の士と描いています。しかし、半藤さんが指摘するように、侵略史観の持ち主とは描きませんでした。

花 5月


 安倍首相の地元は、まさに長州藩、現在の山口県長門市油谷です。松陰が生まれた萩市の隣です。松陰が門下生を育てた「松下村塾」は、同じ2015年、明治日本の産業革命遺産23カ所(九州から岩手県まで)のうちの1つとして世界遺産に登録されました。

 だれが、なぜ、「松下村塾」を世界遺産に巧妙に潜り込ませたのか? 松陰の門下生らによってこの国が亡ぼされたというのに。半藤さんならずとも、自分の頭を叩きたくなります。
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戦争と平和 | コメント(4) | トラックバック(0) | 2016/05/04 11:29
コメント
No title
ノーベル文学賞作家ジョージ・バーナード・ショーの言葉
「有能な者は行動するが、無能な者は講釈ばかりする。」

この手の言葉は他にもいくらでもあるが共産党お得意の陰謀論視点で見ると
blogの内容のようになるんですね。

国家鮟鱇という文字を「家康を胴切りにするものだ!」と言って豊臣家に戦争を吹っ掛けた
徳川家康と同じ危険な臭いが立ち込めていますね。
No title
>安倍首相の地元は、まさに長州藩、現在の山口県長門市油谷です。松陰が生まれた萩市の隣です。

日本共産党関連の山口県出身著名人

河上肇(山口県岩国市出身)
・マルクス経済学の権威
・1932年に共産党入党
・1933年に治安維持法違反で逮捕
・京大教授時代の教え子に木戸幸一と近衛文麿
No title
山口出身者がすべて安倍史観の持主ではありません。宮本顕治・元日本共産党委員長をみれば、わかりますね。
No title
共産党が隠してしまった幽囚録の最後の部分

「その後、住民を愛し、徳の高い人を養い、防衛に気を配り、しっかりとつまり善良に国を維持すると宣言するべきだ。そうでなくじっとしていて、異民族集団が争って集まっている中で、うまく足を上げて手を揺らすことはなかったけれども、国の廃れないことは其の機と共にある。」

あれれ、随分と印象が変わってしまいますね?

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