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◎シリーズ「うたのある風景」 「僕は思わずくしゃみをした」

 JAXAとNHKが共同制作した「地球の出」のDVDがあります。荒涼とした月の地面のかなたから青い地球が登ってくる映像です。私たち人類にとって、地球はかけがえのない、おもわず頬ずりしたくなる存在であることに気づかされます。

 詩人の谷川俊太郎氏の最初の詩集「二十億光年の孤独」に、同名の詩が収められています。

……
「二十億光年の孤独」   谷川俊太郎

人類は小さな球の上で
眠り起きそして働き
ときどき火星に仲間を欲しがったりする
 
火星人は小さな球の上で
何をしてるか 僕は知らない
(或いは ネリリし キルルし ハララしているか)
しかしときどき地球に仲間を欲しがったりする
それはまったくたしかなことだ
 
万有引力とは
ひき合う孤独の力である
 
宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う
 
宇宙はどんどん膨らんでゆく
それ故みんなは不安である
 
二十億光年の孤独に
僕は思わずくしゃみをした
……

40 地球の出
(JAXAとNHKが共同制作した「地球の出」から)

 「地球の出」を読むと、この詩を思い出します。「孤独」をキーワードにした詩ですが、最後の「僕は思わずくしゃみをした」は、何を意味しているのでしょうか?

 この詩は、教科書にも採用されています。「筑摩書房の教科書サイト」で「ちくまの教科書」を見つけました。そこには子どもにわかるように、どう授業するかが書かれています。

 くしゃみをすると、だれかが自分の噂話をしているというのは、昔から伝わることわざです。地球人だけでなく火星人も孤独だと言うと、火星人は地球人も孤独だと噂話をしている…そんな解釈でしょうか。
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「うたのある風景」 | コメント(1) | トラックバック(0) | 2018/09/06 09:14

◎シリーズ「うたのある風景」 礼節だけはわきまえて

 赤レンガ造りのチャペルで知られる神戸市灘区王子の神戸文学館。六甲山を背景にした文学館は、落ち着いたたたずまいで、心が安らぐ。神戸ゆかりの作家たちの原稿や本、作家のコーナーなどが設けられている。

 野坂昭如、横溝正史、椎名麟三、大岡昇平、灰谷健次郎などの原稿、本を見て回っているなかで、「久坂葉子詩集」に目が止まった。広げられた詩集のページには、「こんな世界に私は住みたい」との詩があった。

 こんな世界に私は住みたい
 肩書きもいらず勲章もなく
 人はそれぞれはだかのままの心でもって
 礼節だけはわきまえて
 男も女も仕事をし
 男も女も恋をして
 ひとりひとりの幸福を
 ひとりひとりのねぎごとを
 心にそっと小さくもって
 一生かかって、みずからのためしつくす
 こんな世界に私はすみたい

神戸文学館
(六甲山を背景にした神戸文学館)

 緑の六甲の山に向かって、静かに朗読したくなるような詩だった。仕事をし、恋をし、礼節だけはわきまえて…そのフレーズを静かに口ずさみたくなる。働き疲れ時に、人と人の間の取り方に心労した時には、そっと声を出して。

 久坂葉子(本名は川崎澄子)は、川崎重工グループの創業者、川崎正蔵のひまごである。詩や小説を書き、『ドミノのお告げ』は1950年の芥川賞候補になった。

 亡くなる前に書いた、遺書ともいうべき「久坂洋子の誕生と死亡」に、創作の喜び、苦悩を書きつづっている。新聞記者からの電話にガチャリと受話器を置いた。「絵や舞踏やピアノをやっている令嬢の絵巻」というテーマで記事を書きたい、というものであった。

 父親とたびたび口論した。「お前の幸福のためには結婚して、女らしい生き方をしたらよいのだ」といわれる。薬を飲んで自殺する話も出てくる。それは現実のものになった。1952年12月、21歳で鉄道自殺した。

 戦争が終わり、個人の尊厳、女性の社会進出など日本が民主化されていく時代と朝鮮戦争(1950年)を契機に民主化への反動が強まった時代に久坂洋子は生き、苦悩した。

 「こんな世界に私は住みたい」は、久坂洋子が願った世界である。その願いは、私たちに引き継がれているのだと思った。
「うたのある風景」 | コメント(3) | トラックバック(0) | 2018/06/10 20:22
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